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佐賀地方裁判所 昭和42年(ワ)101号 判決 1969年2月24日

原告

松田栄子

ほか一五名

被告

小井手勇

ほか一名

主文

被告らは、各自、原告荒木フミ子に対しては、金五〇万円およびこれに対する昭和四二年四月二八日から完済まで年五分の割合による金員を、原告松田春代、同田中フサエ、同荒木誠、同岸川省自、同松尾八千代、同荒木喜代子、同荒木好子、同荒木淳、同荒木俊朗、同荒木貞敏、同荒木憲二、同荒木悦雄、同荒木祐自、同荒木正文に対しては、各金一五万円およびこれに対する前同日から各完済までいずれも前同割合による金員を支払え。

原告松田栄子の被告らに対する各請求ならびにその余の原告らの被告らに対するその余の各請求をいずれも棄却する。

訴訟費用のうち、原告松田栄子を除くその余の原告らと被告らとの間に生じた分は、被告らの連帯負担とし、原告松田栄子と被告らとの間に生じた分は、同原告の負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は、「被告らは、各自、原告荒木フミ子に対しては金六七万二、九九七円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日から完済まで年五分の割合による金員を、その余の原告らに対しては各金一七万三、〇六六円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日から各完済までいずれも同じく年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、被告らの連帯負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、(一)、被告株式会社増田組(以下単に被告会社という。)は、建設業を営んでいるものである。

(二)、また、被告小井出勇は、被告会社から依頼され、その指揮監督のもとに継続的に自動車による輸送をして、被告会社の営む右事業に従事していたものである。

二、(一)、ところで、被告小井手勇は、昭和四一年五月七日午後一時一〇分頃、被告会社の右事業執行のため、大型貨物自動車(佐一せ一五四八号)を運転し、時速約二五キロメートルで佐賀県藤津郡太良町の国鉄肥前大浦駅方面へ向けて進行し、同町大浦丙一、六八七番地西方約五〇メートル付近の道路上にさしかかつたところ、同所は幅員約四・五メートルの見透しの困難な右カーブとなつている下り坂であり、かつ当時は雨天のため路面の赤土がぬれて滑走しやすい状態になつていて、しかも前方道路の両側には下校中の多数の児童が対面歩行中であつたが、漫然と時速約二五キロメートルのまま進行して右児童の一団とすれちがおうとした際、左右のバックミラーをのぞいて前方注視を欠いだため、ハンドルの操作を誤つて前記自動車を道路左端に進出させ、折柄道路左端に避譲していた訴外野中久美子に右自動車の左前部を接触させ、さらにその接触を避けようとハンドルを右にとつて、同じく折柄同所道路右端を歩行中の訴外荒木藤雄に同自動車の前部を衝突させ、そのため右荒木藤雄をして肺臓破裂、胸腔内出血等により即死するにいたらしめた。

(二)、右のような場合、自動車を運転している者としては、たえず前方をも注視するとともに、減速徐行をして、事故の発生を未然に防止しなければならない注意義務を有することはもとよりであるから、前記事故は、被告小井手勇が右の注意義務を怠つたことの過失によつて発生したものである。

三、そして、原告松田栄子は、前記荒木藤雄の長男訴外亡荒木学(昭和二四年一〇月一七日死亡)の長女であり、原告松田春代は、右荒木藤雄の長女、原告田中フサエは、同じく二女、原告荒木誠は、同じく二男、原告岸川省自は、同じく三男、原告松尾八千代は、同じく三女、原告荒木喜代子は、同じく四女、原告荒木好子は、同じく五女、原告荒木渟は、同じく四男であり、原告荒木フミ子は、右荒木藤雄の妻であつたものであり、原告荒木俊朗は、右荒木藤雄と原告荒木フミ子との間の長男、原告荒木貞敏は、同じく二男、原告荒木憲二は、同じく三男、原告荒木悦雄は、同じく四男、原告荒木祐自は、同じく五男、原告荒木正文は、同じく六男である。

四、したがつて、被告小井手勇は、民法第七〇九条にもとづき、被告会社は、同法第七一五条にもとづいて、各自、原告らに対し、前記事故によつてこうむつた訴外荒木藤雄の損害ならびに原告らの各損害を賠償すべき責めを負う。

五、しこうして、前記事故によつてこうむつた右荒木藤雄の損害ならびに原告らの各損害は、つぎのとおりである。

(一)、訴外亡荒木藤雄の損害

右訴外人の前記死亡前の平均純収入の年額は、別紙計算書記載のとおり、金二七万九、九二八円であつたところ、同訴外人は、右死亡当時六二歳であつて、その後少くとも八年間の稼働能力を有していたから、これらにしたがいホフマン式計算法によつて算出すると、同訴外人の前記事故にもとづく得べかりし利益の喪失による損害の額は、金一五一万八、九九一円となる。

(二)、原告らの各損害

原告らは、訴外亡荒木藤雄の右死亡により、前記のとおり、同訴外人の妻または子もしくは孫として、それぞれ多大の精神的打撃をこうむつたものであるところ、原告らのこうむつたこの各精神的苦痛を慰藉するためには、原告荒木フミ子においては、少くとも金五〇万円を必要とし、その余の原告らにおいては、少くとも各金一五万円を必要とする。

(三)、もつとも、原告らは、右事故につき、自動車損害賠償責任保険による保険金として、金一〇〇万円の給付を受けたから、これを前記五の(一)の金一五一万八、九九一円から控除すると、金五一万八、九九一円となるところ、これにもとづき、原告らのその各相続額を、それぞれの相続分にしたがつて計算すると、原告荒木フミ子のそれは、金一七万二、九九七円となり、その余の原告らのそれは、各金二万三、〇六六円となる。

六、それで、原告らは、被告ら各自に対し、原告荒木フミ子は、右金一七万二、九九七円と前記慰藉料金五〇万円との合算額金六七万二、九九七円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求め、その余の原告らは、右金二万三、〇六六円と前記慰藉料金一五万円との合算額各金一七万三、〇六六円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日から各完済までいずれも前同様の遅延損害金の支払いを求めるため、本訴におよんだ。

と述べ、〔証拠略〕を援用し、後記乙号各証の成立はいずれも知らないと述べた。

被告小井手勇は、請求棄却の判決を求め、答弁として、

一、前記請求原因一の(一)の事実は認める。

二、同二の(一)の事実は否認し、同二の(二)の過失の主張は争う。

三、同三の事実は認める。

四、同四の主張は争う。

五、同五の(一)、(二)の各損害の点はいずれも知らない。

と述べ、前記甲号各証の成立をいずれも認めた。

被告会社訴訟代理人は、「原告の被告会社に対する請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

一、前記請求原因一の(一)の事実は認めるが、同一の(二)の事実は否認する。

二、同二の(一)の事実は否認し、同二の(二)の過失の主張は争う。

三、同三の事実は認める。

四、同四の主張は争う。

五、同五の(一)、(二)の各事実はいずれも否認する。

と述べ、〔証拠略〕を援用し、前記甲号各証の成立をいずれも認めた。

理由

一、(一)、原告ら主張の前記一の(一)の事実は、当事者間に争いがなく、同一の(二)の事実は、〔証拠略〕を総合して明らかであり、〔証拠略〕をもつてしては、右認定を左右するに足りないし、他にこれを覆えすべき証拠はない。

(二)、ところで、〔証拠略〕を総合すると、原告ら主張の前記二の(一)の事実を認めることができ、これを動かすに足りる証拠はない。

右事実によると、そのような場合、自動車を運転する者としては、たえずその前方をも注視するとともに、徐行をして、事故の発生を未然に防止しなければならない注意義務を有することはいうまでもないところであるから、本件事故の発生については、被告小井手勇に右注意義務を怠つたことの過失が存したものと認めるのが相当である。

(三)、しこうして、原告ら主張の前記三の事実は、当事者間に争いがない。

(四)、以上(一)ないし(三)の各事実によると、被告小井手勇は、民法第七〇九条にもとづき、被告会社は、同法第七一五条にもとづいて、各自、原告らに対し、本件死亡事故によつてこうむつた訴外亡荒木藤雄の損害ならびに原告らの各損害(ただし、原告松田栄子は、右訴外人の孫にすぎないことは、前記のとおりであるから、同原告自身に対する慰藉料については、同原告と右訴外人との間に特別に密接な生活関係が存していた場合にかぎる。)を賠償すべき義務があるものといわなければならない。

二、そこで、原告ら主張の前記五の(一)、(二)の本件死亡事故による各損害の有無について順次判断する。

(一)、まず、右五の(一)の訴外亡荒木藤雄のいわゆる逸失利益による損害について

右訴外人が昭和四一年五月七日本件事故によつて死亡したことは、さきに認定したとおりであり、この事実に、〔証拠略〕を総合すると、訴外亡荒木藤雄の右死亡当時における同居家族は、原告フミ子、同俊朗、同貞敏、同憲二、同悦雄、同祐自、同正文、同喜代子、同好子であつて、原告誠およびその妻子らは、近くに別居していたものであるところ、右訴外人または原告俊朗もしくは原告誠の所有する土地は、田、畑、宅地、山林であつて、それらによる収穫、収益は、(1)米については、収穫は、少くとも二〇俵、収益は、昭和四一年産米政府売渡三等標準価格一俵につき金七、〇八七円の二〇俵分の額金一四万一、七四〇円(計算上明白である。)から肥料、農薬代金二万四、四〇〇円(原告らにおいて自認するところである。)を控除した額金一一万七、三四〇円(計算上明白である。)、(2)麦については、収穫は、少くとも二〇俵、収益は、昭和四一年産麦前同標準価格一俵につき少くとも(原告らの主張額による。)金三、〇三七円の二〇俵分の額金六万〇、七四〇円(計算上明白である。)から肥料代金六、〇〇〇円(反当金一、五〇〇円)を控除した額金五万四、七四〇円(計算上明白である。)、(3)甘しよについては、収穫は、一五〇俵、収益は、少くとも金三万五、〇〇〇円、(4)木炭については、収穫は、七五俵、収益は、金三万七、五〇〇円、(5)薪については、収穫は、五〇〇束、収益は、金三万円(一束につき、金六〇円)、(6)竹材については、収益は、少くとも(原告らの主張額による。)金一万六、〇〇〇円、(7)野菜、みかんについては、収益は、金二万円であり、それらの収益の合計額は、金三一万〇、五八〇円(計算上明白である。)であつたこと、これに対し、前記訴外人の稼働の割合は、他の稼働者の分をも含めた全体のそれの少くとも七割を下らなかつたから、同訴外人の稼働による収益は、右金三一万〇、五八〇円の七割の額金二一万七、四〇六円(計算上明白である。)であつたところ、同訴外人の当時における平均生活費は、年額金六万円(月額金五、〇〇〇円)であつたから、同訴外人の当時における平均純益の年額は、前記金二一万七、四〇六円から右金六万円を控除した額金一五万七、四〇六円(計算上明白である。)であつたこと、ところで、右訴外人は、本件死亡事故当時、明治三三年一月二日生れの満六六歳(六二歳ではない。)であつて、右事故が存しなかつたならば、なお四年間の稼働能力を有していたから、同訴外人は、同事故により、その事故がなかつたならば得られたはずの右年額金一五万七、四〇六円の四年分の純益を得ることができなくなつたことをそれぞれ認めることができ、これに反する〔証拠略〕は、前記の各証拠に照らして採用できないし、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。しかし、原告らのその余の逸失利益に関する主張事実については、これを認めさせるに足りる証拠はない。

右事実にもとづき、すなわち、純益年額は金一五万七、四〇六円、期間は四年とそれぞれして、ホフマン式計算法によつて算出すると、訴外亡荒木藤雄の本件死亡事故にもとづく得べかりし利益の喪失による損害額は、金五六万一、〇四二円(「小額通貨の整理及び支払金の端数計算に関する法律」による。)となることが計算上明らかである。

もつとも、原告らが本件事故につき自動車損害賠償責任保険による保険金として金一〇〇万円の給付を受けたことは、原告らにおいていずれもこれを自認するところであるから、これによると、訴外亡荒木藤雄の少くとも前記の逸失利益による損害は、右保険受給金により補われてなお余りのあることが計算上明らかである。

(二)、つぎに、右五の(二)の原告らの精神上の損害について

〔証拠略〕および前記各事実(保険金受給の事実をもとより含む。)その他本件記録にあらわれている一切の事情を斟酌すると、訴外亡荒木藤雄の本件死亡事故による同訴外人の妻であつた原告荒木フミ子、同じく子である原告松田春代、同田中フサエ、同荒木誠、同岸川省自、同松尾八千代、同荒木喜代子、同荒木好子、同荒木淳、同荒木俊朗、同荒木貞敏、同荒木憲二、同荒木悦雄、同荒木祐自、同荒木正文の各精神的打撃は、いずれも多大であつて、これらの精神的苦痛を慰藉するためには、原告荒木フミ子においては、少くとも金五〇万円を必要とし、その余の右原告らにおいては、少くとも各金一五万円を必要とするものと認めるのを相当とする。

しかし、原告松田栄子については、同原告が訴外亡荒木藤雄の孫(民法第七一一条は、「被害者ノ父母、配偶者及ヒ子」と規定している。)にすぎないことは、前記のとおりであるところ、同原告と右訴外人との間に特別に密接な生活関係が存したことを認めさせるに足りる証拠はないから、同原告の右の慰藉料に関する主張は、理由がない。

三、そうすると、被告らは、各自、原告荒木フミ子に対しては、右慰藉料金五〇万円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日であることが本件記録に照らして明らかな昭和四二年四月二八日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、その余の原告松田栄子を除く原告らに対しては、同じく慰藉料各金一五万円およびこれに対する前同昭和四二年四月二八日から各完済までいずれも前同年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるものというべきであるから、原告らの被告らに対する本訴各請求は、原告松田栄子を除くその余の原告らが被告ら各自に対し右各金員の支払いを求める限度においては、いずれも正当としてこれを認容すべきであるが、原告松田栄子を除くその余の原告らのその余の各請求ならびに原告松田栄子の被告らに対する各請求は、いずれも失当としてこれを棄却すべきである。

四、それで、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八九条第九二条但書、第九三条第一項但書前段を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原宗朝)

計算書

(一)、(1)、米 二四俵 金一四万五、六八八円

昭和四一年産米政府売渡三等標準価格一俵につき金七、〇八七円の二四俵分の額金一七万〇、〇八八円から肥料農薬代金二万四、四〇〇円を控除した額

(2)、麦 二〇俵 金四万五、七四〇円

昭和四一年産麦右同標準価格一俵につき金三、〇三七円の二〇俵分の額金六万〇、七四〇円から肥料代金一、五〇〇円を控除した額

(3)、甘しよ 一五〇俵 金三万五、〇〇〇円

(4)、木炭 七五俵 金三万七、五〇〇円

(5)、薪 五〇〇束 金四万円

(6)、竹材 四〇〇束 金一万六、〇〇〇円

(7)、野菜・みかん 金二万円

(8)、以上(1)ないし(7)合計金三三万九、九二八円

(二)、生活費を控除した額金二七万九、九二八円

右(一)の合計額金三三万九、九二八円から訴外亡荒木藤雄の前記死亡当時における平均生活費年額金六万円(月額金五、〇〇〇円)を控除した額

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